小売業は、その国の生活を映す鏡のような存在であるが、世界のショッピングセンターや小売店の実情から、生活全般の変化を考える。
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日本チェーンストアのパイオニア長崎屋創業者を悼む
 真っ直ぐ続く土手の道を男が自転車を押して歩いている。自転車の荷台には四角い箱が取り付けられ、アイスキャンディーと書かれた旗が立てられている。アイスキャンディー屋さんだ。土手の下には、野球グランドや散歩道があって先ほどまで人声にあふれていたが、もう皆帰ったようで静まり返っている。今日のキャンディの売れ行きはどうだったのか。もう一日が終わろうとしている。男の背中には夕日が当たり、影が長く伸びている。とぼとぼと帰る男の背中は、寂しげだ。

 『販売革新』25周年記念の特集企画で長崎屋創業者の岩田孝八さんにお会いした時の話でした。自伝の本が発売されるのが近いということで、岩田さん自身が考えていたプロローグのイメージを話してくれました。その後発売された自伝本は、その時聞いた話とは違っていましたが、若き日の1ページとして岩田さんの胸の中に残った風景だったのでしょう。2012年7月3日、その岩田さんが亡くなりました。90歳の大往生でした。訃報をお聞きして改めて自転車を押して平塚の土手道を歩く岩田さんの姿が浮かんできました。

 岩田さんは、商業界による戦後初めての米国流通業視察団の参加者でした。視察団にはイオンの創業者である岡田卓也さんなども参加されていました。1959年のことで、ウエキ島という太平洋の孤島で燃料の補充を行い、ホノルル経由でアメリカ本土にやっと上陸した、ということです。まだ1ドル360円の時代で、持ち出すドルにも際限がありました。アメリカでは、フリーウエイが縦横に走っていること、ショッピングセンターがあちこちにあることに驚かされた、という話を聞いています。

 その後、もともとふとん店だった長崎屋は、チェーン展開を始め、どの企業よりも早く全国展開を果しました。チェーンストアに対する理解が日本ではまだ十分進んでいなかった時です。総合スーパーを展開する企業の中で一番に上場を果たしたのも長崎屋でした。日本のチェーンストアの手本を作ったのが、長崎屋だったのです。大規模店舗規正法の強化が行われるという時に、自民党本部で「ある程度の規制は業界のためにもなる」と発言し、規制緩和を訴えていた他の経営者から顰蹙を買った、というエピソードも一歩早く全国展開を果していた余裕があったからなのでしょう。

 チェーンストア展開の原動力になったのが、回転差資金の理論でした。回転差資金は、小売業の特性と言ってもよいでしょう。小売業は、お客と直接現金で商売をします。ところが仕入れの支払いは、3か月とか長い時は半年になる場合もあります。この差を利用して新たな店舗を作るのです。店舗を作れば、また現金が溜まります。こうしてどんどん転がして行けば難なく出店の資金は間に合う、ということです。高度経済成長は、さらにこれに輪を掛けました。特に土地の高騰です。

 小売業にとって土地の高騰には2つの側面がありました。1つは経済成長による自然の値上がりです。しかし、それ以上に重要だったのが出店による土地の値上がりです。店舗を作るだけで、その土地が1.5倍にも倍にもなったのです。この資産価値の値上がりを背景にダイエーなどもお金を借りまくりました。チェーンストア経営の本質とは、全く違うところで企業が成り立っていたのです。銀行が莫大な資金を貸し込んでも平気でいたのは、この構造があったからです。しかし、経済は低成長に変わり、土地の値下がりはない、と言う神話が崩れてしまうと経営は行き詰ってしまいました。ダイエーを初め多くの小売業が破たんしたのはこのためです。

 長崎屋も例外ではありません。2000年2月には倒産、5月には上場を廃止し、現在はドン・キホーテの傘下に入っています。長崎屋には、不運もありました。1990年3月の尼崎店の火災です。従業員12名、お客3名、の合計15名が亡くなりました。これが長崎屋倒産の遠因になった、とも言われています。放火と言われていますが、火災に対する対策の不備は免れません。その後お会いした岩田文明当時の社長は、深く反省の弁を述べていました。

 さまざまな面で日本のチェーンストアの教師的な役割を果した長崎屋ではありましたが、アメリカのホテルで日本から持参した日本酒を飲みながら岡田卓也さんと語り合った青年、岩田孝八は、長崎屋の現在をどう見ていたのでしょうか。
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