小売業は、その国の生活を映す鏡のような存在であるが、世界のショッピングセンターや小売店の実情から、生活全般の変化を考える。
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チェーンストア理論の生みの親、渥美俊一先生を悼む
若き日の渥美先生
 渥美俊一先生が7月21日永眠されました。心よりお悔やみ申し上げます。
渥美先生は、いわゆるチェーンストア理論を日本で構築された方でした。それまでの小売業経営の手法は、お客の信頼をどう獲得するか、が中心のテーマで経営理論と言ったものはありませんでした。先義後利、正札販売、現金販売などが商売の技術といえば技術でもありました。小売店自体も、百貨店に代表されるように地域主義、一点豪華主義、いわば王侯貴族を対象とするようなもので、一般大衆を排除したものでした。一般大衆にとっては、百貨店での買物は、夢だったのです。チェーンストア理論は、一般大衆が豊かな生活を享受できるための理論でした。

 実は、もともとチェーンストア理論なるものは無かったのです。アメリカのチェーンストア理論を日本に導入した、と誤解されている面もありますが、そんなものはもともとないのです。あるのはアメリカ小売業の現実でした。大衆消費社会を謳歌していたアメリカ小売業の現実です。シアーズやJCペニー、クローガー、セーフウェイといった大企業の存在でした。小売業なのになぜ大きな売上を上げ、株式の上場なども可能なのか、その質問の答えがチェーンストアだったのです。アメリカで100年掛かって出来たものをその半分で実現するためには、何よりも理論化が必要でした。アメリカのチェーンストアの歴史、フォーマットの盛衰、主要企業の経営、組織や陳列手法など、数々の技術が体系付けられることになりました。現在の日本の小売業があるのは、そのお陰といっていいでしょう。

 渥美先生に教わったことは、たくさんあります。ある時期には1ヵ月に2、3度も事務所にお伺いして教えを乞いました。アメリカにも連れて行って頂きました。不肖の弟子ですが、私以上に教えの時間を頂いた人間もいないかもしれません。それまで悩んでいたことがすっきり理論立てられたり、インタビューの中から新しい企画が生まれたりしました。その先生の理論の柱は、「プラグマチズム」です。実際主義、現実主義といったものですが、経験したものの中から真理を見出そうということです。前述のように、もともとアメリカの小売業を観察するところから理論化が始まっているのは、そういうところから来ているのです。

 アメリカ小売業で成功事例を奨励する一方、人類が経験したことも無い、奇抜なアイデアをことごとく否定しました。奇想天外なこと、面白可笑しいこと、一時の流行などを嫌いました。原理原則を大事にし、初めて手をつけること、不慣れなことは必ず実験や訓練をするように指導しました。アメリカ視察でも参加者に試買、試着、試食、試飲などを薦めていました。全て経験をしたことを実行するように指導していたのです。チェーンストアが、日本に産業化したのは、まさにこの指導によるものでした。

 経営コンサルティングにおいても、重要なことをたくさん教えていただきました。その中でも一番のポイントが教育の優先順位です。何をまず教えるべきか。これを間違えると、何を学んでも無駄になりますし、後々まで経営の足を引っ張ることになります。優先順位のトップは、言葉の統一です。社長の使う言葉と社員の使う言葉の意味が違っていたのでは、コミュニケーションが円滑に行きません。どんな指示をしても現場は適切に動きません。皆が同じ意味で言葉を使うようにすることが、まずは組織の原則なのです。そこで渥美先生は、「チェーンストア用語集」と言うものを作り、社員一人ひとりに持たせるように指導しました。

 コミュニケーションが円滑に行くようになったら、次は数字です。数字は誰が見ても変わりません。そこに主観の入り込む余地はありません。例えば、今日の売上は良かった、と言っても昨日と比べてか、前年に比べてか、経営者の腹積もりなのか、はたまた近くの競争相手に比べてなのか、まったく分りません。しかし、今日の売上は5万1230円、と言えば誰でも分かります。昨年より儲かった、と言っても粗利なのか税引き前利益なのか、ということは経営にとって重要なことです。売場の計数、財務の分析など皆でしっかり確認できることが必要なのです。このように原理原則をしっかりと教えていただきました。この教えをこれからも守っていくことが渥美先生のご恩に報いることになる、と改めて思っております。合掌。
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